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もうはなさない 51

2015/07/08 (水)  カテゴリー/もうはなさない

明かりが付いている家に帰るのは嬉しいが、遅くなった理由を考えるとやはり後ろめたい。
母はバイトだと思ってるので、このまま何食わぬ顔でやり過ごせばいいのだろうが、嘘がすぐ顔に出てしまうキョーコは両手で頬をパンパンと軽く叩くと気合を入れて居間の扉を開けた。

「ただいま・・・・・・・。」
「お帰りなさい・・・・随分遅かったのね。」

出迎えられるのはこれで何度目だろう。
遭難騒ぎがあってから数えるほどではあるがキョーコより先に帰宅する事があった。
だからと言って普通にリビングでTVを見ているわけもなく、仕事をしているのだが、それでもキョーコにしてみれば嬉しい事だった。

「ご、ごめんなさい・・・・・・。」

別に悪い事をしている訳ではないが、まだ母に蓮を紹介していないせいもあるのだろう。
顔がまともに見れない。

「バイトだったの?それともデート?」

咎める訳でもなく、かと言って興味がある訳ではなさそうな口調でそう訊ねられた。
その言葉に、キョーコの顔が引きつる。

「尚くんのお母さんに聞いたのよ。遭難した時、キョーコの彼氏が病院で付きっ切りだったって。帰ってきたときも送ってもらったんでしょ?挨拶くらいさせてほしかったわね。」

帰宅した日は何も言わなかったので送ってもらったことはばれていないと思っていただけに、尚の母親から蓮の話を聞いているとなれば、誤魔化しようもない。

「別に、怒ってる訳じゃないのよ。あなたに偉そうに説教できるような、立派な母親じゃないんだから。」
「お母さん・・・。」
「でも、あなたがお世話になったのなら何かお礼をしないとだめでしょ?今度連れてきなさい。」

それは世間体を気にしての言葉なのか、それとも母親としてなのか、キョーコにはわからなかった。

「わかった。」
「何してる人なの?」

視線は書類を見たままだが、キョーコに興味を持ってくれるだけ前進した方だろう。

「大学4年生。向こうもね、付き合うことになった時にお母さんに挨拶したいって言ってたんだけど・・・・お母さん忙しかったでしょ?だから・・・・・・。」
「そう・・・・ごめんなさいね・・・・。あなたには気を使わせてばかりで・・・・。」

しんみりした空気に、言葉が続かない。
何か違う話題を探しているとふと視界に鞄に入れておいたチラシを見つけた。
キョーコは学校で渡された進路希望の紙と塾のチラシをテーブルに置いた。

「お母さん・・・・・私、進学しようと思ってるんだけど。」
「良いと思うわ、お金の心配ならしなくても大丈夫よ。その為に、今まであなたを犠牲にして働いてきたんだから。」

“犠牲”と言う言葉がキョーコの心に切なく響いた。
次の言葉を捜していると、キョーコの携帯が鳴り出した。
着信表示は蓮・・・・・・。

「彼氏から?今日はもう遅いから早くお風呂入って寝なさい。塾に行くんなら申込書貰ってきなさい。人気のある塾はすぐにいっぱいになるから、早めに申し込みしないとだめよ。」

母に追い立てられ、キョーコは部屋への階段を駆け上がった。


◇◆◇◆

「もしもし。」
『俺だけど・・・・・今日大丈夫だった?』

それはキョーコの母の事を指していた。
いつもデートの帰りに送り届けると、家の明かりがついている事はなかったが、キョーコの話では最近数えるほどではあるが帰宅している事があるのだと聞いていた。
曉送り届けた時、家の明かりがついてただけに、キョーコが怒られたのではないかと心配したのだ。

「それなら大丈夫ですよ。それに、さっきお母さんが今度彼氏を紹介しろって・・・・・・。」

その言葉にホッと胸をなぜ下ろすと同時に、キョーコが自分の存在を母親に話してくれたことが嬉しくなる。

『俺ならいつでも大丈夫だから。お母さんの都合に合わせるって言っておいて。』

少し嬉しそうな声に、キョーコは思わずムッとする。

「蓮・・・・そんなに楽しみなの?」

その不機嫌そうな声で、蓮は受話器の向こうで小首を傾げる。

『どうかした?』
「だって・・・・・お母さんに会うことが嬉しいみたい・・・・・・。」
『そんな事か・・・・・。』
「そんな事って!?」

キョーコにしてみれば、母に合わせるのは緊張もするし、もし何か言われたら・・・・付き合うなと言われたらと、内心ヒヤヒヤしているのに・・・・蓮はあっけらかんと、そんな事と言う。

『だってそうだろ?俺がキョーコと付き合ってる事を、ちゃんとキョーコのお母さんに許して貰いたいんだから・・・・早く会って話したいだろ?』
「そうだけど・・・・・・もし反対されたら?」
『反対されないように努力するさ。俺が、キョーコの事をどれだけ好きか、懇々と話すよ。』
「やめてよ、恥ずかしい・・・・・・。」

冗談ともいえない言葉に、キョーコは笑う。
蓮に任せれば、きっとうまくいく・・・・そう思ってしまえるくらい頼もしい存在。

「私ね・・・やっぱり塾に行こうと思うの・・・。もちろん蓮に教えてもらえるのは凄く嬉しいけど・・・・でもね、これだけは自分の力で乗り切りたいの。蓮に頼っちゃったら、これから先も私、蓮に頼っちゃいそうで・・・・。」

――――― 頼ってくれればいいのに・・・・・。

内心、蓮はそう思う。
でも、口には出さない。
一線を引かないと、キョーコは自分自身が成長しないと考えたのだろうから・・・・。
その気持ちを尊重してあげたい。
それにキョーコの口から“これから先”という言葉を聞けただけでも十分うれしい。

『分かってるよ。その代わり、何かあったら必ず相談して。』
「うん・・・・ありがとう、蓮・・・・・・それじゃぁ・・・・蓮はどうやって大学を決めたの?」

思い切って聞いてみる。
やはり、現役大学生に聞くのが一番いいと思ったのだ。

『キョーコは迷ってるの?』
「迷ってると言うか・・・・・まだ、やりたい事が何か分からなくて・・・・モー子さんはね、芝居を続けたいからお芝居の勉強できる所に行きたいって・・・・他の友達も自分の夢を見つけてるのに・・・・私には何の目標もないというか・・・・・・。」

慌しい生活の中で、自分の夢なんて考えた事がなかった。
学校とバイト、そして家の事・・・特に母との事で精一杯だった。

『そうだな・・・・何かやりたい事とか、興味とか好きな物とかある?』
「やりたい事・・・・興味・・・好きな物・・・。」

考え込んでしまったのか、暫く沈黙が続く。
その沈黙の中、大きなため息が聞こえてきた。

「私って・・・・本当につまんない人間なんだ・・・・・何も思い浮かばない・・・・・。」
『つまんないとか言わないで・・・・・キョーコはまだ、本当にやりたい事が見つからないだけだよ。その内、これだって物が見つかるさ。』

励ます蓮の言葉に、光の言葉を思い出す。
光も、大学に入ってから夢を探す人だって大勢いると言ってくれた。

「蓮は・・・・どうして明泉に入ったの?」
『俺?俺は・・・・・前に話したよね、家の事・・・・・。』
「うん。」

蓮の両親は今、アメリカに住んでいて向こうで貿易会社をしていと付き合いだした時に話してくれた。
千織も以前言っていたが、そんな両親を介してしか自分を見ようとしない周りにうんざりして、蓮は15歳の時に単身日本の学校に進学した。
自分の事を誰も知らない場所で、自分の力で何かを成しえたい考えたのだ。

『明泉を選んだのは、将来俺に必要な知識を学ぶためだよ。』
「必要な知識って?」
『会社を継ぐつもりはないけど、自分で会社を作る時に必要な知識を明泉で学んでるんだ。あの大学には俺が学びたい要素が全部そろってるし尊敬している教授がいるから・・・・・まぁ、うちの親父の母校でもあるみたいだけどね。』

蓮には夢がある。
だが、キョーコは自分が何をすればいいのかまだ分からない。

『キョーコは何が好き?』
「何がって言われても・・・・。」

唐突に聞かれてもパッとは出てこない。

『例えば・・・・本読むの好きだろ?それに、動物も好きだしキラキラコスメも好きだし、裁縫も得意だろ?』
「うん・・・・。」
『そういった、身近な好きなものから考えていけばいいんじゃないかな?本が好きだから出版関係とか図書館の司書とか、裁縫が得意だから服飾関係とか・・・・・それに関連する職業の事を考えてみれば?』

蓮の話はとても分かりやすい。
確かに、焦って只何になりたいか考えるよりも、自分の身近なところから好きな職業を探していった方が答えが見つかりそうな気がする。

「ありがとう・・・蓮。私、もう少しいろいろ考えてみる。」
『そうすると良いよ。まだ時間はあるんだし、大学に入ってからでもやりたい事は見つけられると思うし、それに・・・・・・。』
「それに?」

変なところで言葉を切った蓮の言葉に、キョーコはその先を促す。

『それに、もし見つからなかったら俺が知ってる良い就職口があるよ。』

電話から聞こえてくる蓮の声。
からかうような口調でもなく、声色は真剣だ。

「蓮が知ってる良い就職口って何?」
『俺の所に永久就職するってのはどう?』

蓮の言葉に暫しの沈黙をしたキョーコは漸く意味を理解する。

「それって・・・・・・・それって・・・・・・なんて事を言うんですか!?」

電話でさらっと言われた言葉は、まるでプロポーズ・・・・・。
受話器の向こうで、蓮はキョーコの状況を想像する。
どうせ、真っ赤になりながら焦っているに違いない。

『俺は思った事を言っただけだよ。そういう選択肢もあると思えば気が楽だろ?』
「そんな事、簡単に言わないで下さい。」
『簡単に言ってるつもりはないよ。本当に、将来そうなればいいって思ってるから・・・・だから、キョーコはゆっくり自分のやりたい事を考えればいいんだよ。』

何処までも、キョーコの事を考えて言ってくれているのだろう。
先ほどまで、進路に不安で仕方なかったのに、今では焦る気持ちは無くなっていた。
本当に、蓮が彼氏で良かったと思う。
電話を切って、一息ついてキョーコは蓮に言いそびれた事を思い出した。

「そうだ・・・・明泉大に見学に行くって言い忘れちゃった・・・・・ま、いっか。広い大学で早々出会うとは思えないし・・・・・。」

そんな暢気なことを言いながら、キョーコは明日も学校だと急いで風呂に入り、ベットに潜り込んだ。

To be continued

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