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もうはなさない 55

2015/10/21 (水)  カテゴリー/もうはなさない

蓮と共に食堂に入ると、食堂に居た誰もが蓮の姿に色めき立つ。

「何か飲み物買ってくるから、キョーコは先に行ってて。」

周りのざわめきを気にする事なく、蓮はキョーコにそう言うと自販機へと向かう。
このざわめきの根源が自分だと知ってか知らずか、涼しい顔で自販機に向かう蓮を見送るとキョーコは周りの視線を気にしながら先に来ているであろう奏江たちの姿を探した。
その時こちらに向かって手を振る奏江の姿が見えた。

「モー子さん、天宮さんごめんなさい。百瀬さんも・・・・急にいなくなってすみませんでした。」

深々と謝るキョーコはいつものキョーコだった。

「最上さん、大丈夫?ちょっと私調子にのり過ぎちゃったわ、ごめんね。」

心配そうな千織の声に、キョーコは苦笑いする。

「大丈夫。私の方こそ・・・もっとしっかりしないと、天宮さんに申し訳ないわよね。」

事情のわからない逸美は、一体何の話をしているのか検討もつかない様で、頭の中でクエスチョンマークが浮かんでいる。

「そうよ。私が唯一認めてるんだから、もっと自信持ってよね。」
「うん・・・。ありがとう。」

2人の会話を聞きながら奏江は少しほっとしていた。
千織が冗談交じりに過激な発言をするが、それはすべてキョーコに対する些細な仕返しなのだろうが、そこに悪意は感じられない。

「さすがオープンキャンパスだね。ここがこんなにごった返してるの初めて見たよ。」

両手に紙コップを持った蓮がそう言って、話の中に入る。
キョーコは慌てて椅子を引き、蓮に座るように進めた。

「よく言うわ。蓮はほとんどここで昼食取らないじゃない。」
「そうだったかな?ミルクティーで良かったかな。」

――――― 絶対食べに来てないと思う・・・・。

差し出されたカップを受け取りながら、内心キョーコはそう突っ込みたい所をぐっと堪えた。
デートの時はキョーコを気遣い一緒に食事を取るが、社から聞いた話ではほおって置くと、いつまでも食事しないとの事だった。

「何?」
「いえ、べつに・・・・・。」

何か言いたげなキョーコに蓮が反応する。
そんな2人の雰囲気に、逸美は何か感じ取ったのだろう。

「私はそろそろ行くわ。蓮、ちょっといい?」

逸美に呼ばれ、蓮は席を立つと少し離れた場所まで連れてこられた。

「あの娘、蓮の彼女でしょ?」
「そうだけど。」

あっさりと言われ、逸美は複雑な気持ちになる。
だが、その穏やかな表情で蓮がどれ程彼女の事が好きなのか良く分かる。
あんな焦った蓮も、初めて見た。

「でも・・・・あの娘どうして急にいなくなったのかしら?」
「それは・・・・・彼女なりにいろいろ考える所があったんじゃないのかな。俺の彼女だって紹介されたら、あっという間に広まって、大変な事になるかもしれないだろ?」

蓮は卒業したらそれまでだが、キョーコはこの大学に入るかもしれない。
だからキョーコに内緒にして欲しいと先ほど頼まれたのだ。

「でも、私には教えてくれるんだ。」
「逸美は口が堅いだろ?だから、あちこち言いふらす心配もないしね。」
「信用してくれてるんだ・・・。でも、いい事聞いちゃった。これをだしに、論文手伝ってもらおうかしら?」

冗談半分にそう言って笑う。
やはり、こうやって気兼ねなく話している方が良い。
逸美はそんな事を思っていた。

「蓮・・・・あの左の娘には気をつけたほうが良いわよ。」

急に真剣な表情になり、逸美は千織を視線で指す。
蓮と逸美の様子が気になるのか、こちらが見える位置に座っている千織と奏江がちらちらと様子を窺っている。

「たぶんあなたの事好きなんだと思うけど・・・・あの子、曲者よ。彼女がいたって関係ないっていなんて、物騒な事言ってし。」

その言葉に、蓮は苦笑する。
 
「それなら大丈夫だよ、もうひと悶着あったから。」
「そうなの?」

驚く逸美に、蓮は苦笑する。

「今度どうやって知り合ったのかゆっくり聞かせてよね。」
「気が向いたらね。」

こちらを気にするキョーコの視線に、蓮は逸美に別れを告げ戻っていった。

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