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もうはなさない 1

2012/11/05 (月)  カテゴリー/もうはなさない

煩わしいテストから開放され、思い思いの予定を立てみんな帰って行く。
キョーコも慌しく帰り支度を整えると教室を出た。

「キョーコ、テストも終わったしどこか寄ってかない?」

下駄箱で靴を履き替えていると、親友の奏江に声を掛けられた。

「ごめん、モー子さん。実は・・・・・・・。」

他の生徒に聞かれないようにと、キョーコは奏江に耳打ちする。
それを聞いた途端、奏江が叫んだ。

「今からデー・・・ふがっ!?」
「モ、モー子さん、声が大きい・・・・・。」

慌てて奏江の口を押さえ周りの様子を伺う。
奏江の叫び声もどうやら雑音としか捉えられていないようで、誰も気にしていない様子にキョーコはホッとしながら、奏江から離れると少し怒った顔で奏江を見た。

「ごめん。ビックリしてつい・・・・・・・。」

手を合わせて謝る奏江。
事前に言ってなかった事もあり、キョーコも強くは言えない。

「もういいわよ。もう少し早く言おうと思ってたんだけど、テスト期間だったから言い出せなくって・・・・・。」

何度か奏江に話そうとしていたのだが、テストの事もありタイミングが合わず言いそびれていた。

「今日のあんた、どっかソワソワしてたもんね。」
「そんなにソワソワしてた?」
「してたわよ。てっきりテストの出来がいまいちなのかと思ったけど、成績優秀なあんたに限ってそんな事あるはずないわよね。」

キョーコは学年でも常に上位の成績。
それを鼻にかけない親友は奏江は密かな自慢だった。

「で、相手は前に言ってた王子様?」
「お、王子様って・・・・、そ、そんなんじゃないわよ!?」

キョーコは真っ赤になって反論する。
でも、話にしか聞いた事はないが、その相手との出会いがまさに運命的だと奏江は思っていた。

「やっと返事返したんだ。」
「・・・・うん。」

梅雨の頃告白されえたと相談され、取り合えずお試しで何度か遊びに行っていたようだが、ようやく付き合う事にしたらしい。

「良かった・・・・・。最近あの人の話しないからどうなったのか心配してたのよ。」
「ごめんねモー子さん、心配かけちゃって。」
「いいわよ、そんな事。それより、待ち合わせの時間大丈夫なの?」

時計を見ると待ち合わせの時間が迫っている。

「モー子さんごめん。私もう行かなきゃ!?」
「いいわよ。その代わり今度ゆっくり聞かせてよ。」
「うん。それじゃ、バイバイ。」
「それじゃ、またね。」

校門で別れると、待ち合わせの公園へと走る。
駐車場手前で、キョーコは息を整えた。
待ち合わせしているのは、とある理由で出逢った年上の彼氏。
駐車場にはすでに、見慣れた車が止まっていた。
車に近づくとキョーコに気がついたのか車から降りてくる人影。

「最上さん、お帰り。」

笑顔で出迎えられ、キョーコの心臓が大きく跳ねる。

「敦賀さん・・・ただいま・・・・。」

少し恥ずかしそうにそう答えると蓮は心なしか愉快そうな笑顔を見せた。

「そんなに急がなくても良かったのに。」
「えっ?」

どうして走ってきた事がわかったのかと思いつつ、キョーコはふと車のガラスに映る自分の姿を見た。
そこにはおでこ全開の自分の姿・・・。

「遅れちゃいけないと思って少し走ってきたから・・・・・。」

慌てて前髪を直しながら、一緒にガラスに映りこんでいる蓮の姿を盗み見る。

――――― こんな人が私の彼氏なんて・・・・未だに信じられない・・・・。

キョーコはボンヤリとそんな事を考えていた。

「どうかした?」

不意に近くで声がするので顔を上げると、そこには心配そうな顔が目に入った。

「いえ、今日のテストの結果が気になっちゃって・・・・・・・。」
「できなかったの?」
「そんな事はないんですけど・・・・・・・・・。」

さっき考えていた事を悟られないように、テストの話題に話を変える。
折角、今から遊びに行くというのに、つまらない事を言ってこの空気を変えたくはない。

「とりあえず、時間がもったいないから行こうか、っとその前に最上さんの家によって着替えるんだっけ?」
「はい。さすがに制服はちょっと・・・・・・。」
「俺は一向に構わないけどね。」

冗談とも取れない発言に苦笑しながら、キョーコは車の扉を開けてもらいシートに腰掛けた。
キョーコがシートベルトをするのを確認するとキョーコの家に向かって車は走り始めた。

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もうはなさない 2

2012/11/13 (火)  カテゴリー/もうはなさない

世間がクリスマスで賑わいをみせる中、キョーコはバイトに行く為駅で電車を待っていた。
ホームに入ってきた電車は思った以上に込み合っていたが、乗らない訳には行かない。
意を決し、電車に乗り込むと扉はゆっくりと閉まり電車は走り始めた。
それから暫く、キョーコの体に異変を感じた。

――――― !?・・・・・誰か触ってる?

しかし、満員の車内だけにもしかしたら気のせいかも知れない。
確かめようにも、込み合っている車内では顔をそちらに向けることも出来ない。
後3駅・・・・・・。
我慢しようとグッと堪えていると、その行為はやはり気のせいではなく序所にエスカレートし始めた。
スカートの上から触られていた手が、だんだんと触り方をエスカレートさせてきたのだ。

――――― どうして、私がこんな目に・・・・・・許せない・・・・・・。

普段はノホホンとしているキョーコだが、正義感は強い。
そして今日は特別機嫌も悪かった。
キョーコはなんとかしようと体をよける。
しかし、込み合っている車内では異動する事もままならない。
後2駅・・・・・・電車から人が降りるたび少しづつ空いて行く車内でそれでもキョーコの真後ろに陣取る中年の男。

――――― 絶対この人が怪しい・・・・・・・・・・。

キョーコが睨んでも何食わぬ顔で平然としている。
だが、手の動きは一向にやまない。
他の人たちはそれぞれに、吊り輪や鞄や荷物を手に持って、キョーコに触るような余裕はない。
確信を持ったキョーコはその男を捕まえようと声を出そうとした瞬間。

「あんた、何やってんだ?」

キョーコの声はその男性の声によって遮られた。
顔を上げればそこに立っていたのは、先ほどまでキョーコを触っていたと思われる手を掴みあげている長身の青年の姿だった。

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もうはなさない 3

2012/11/24 (土)  カテゴリー/もうはなさない

着いた所は、海辺沿いに出来た大きな観覧車が目を引くショッピングモール。
展望台からは街の景色が360度見渡せ、夜になると夜景が美しい。
以前TVを見ながら携帯で話をしていた時に、もうすぐできる話題のスポットとして紹介されていた場所だった。

「敦賀さん、ここって前に話してた・・・・・・・。」
「行ってみたいって言ってたから、どうせなら最上さんの行きたがってた所にしようと思って。」

そう言ってキョーコの手を取った。
その瞬間、キョーコは反射的に手を引っ込める。

「最上さん?」

手を振り払われるような形なった蓮は困惑の声を上げる。

「ごめん・・・・・・嫌だった?」
「そ、そうじゃなくて・・・・・・・・・。」

反射的に手を振り払ってしまったのは、手を繋いだらドキドキしている事が蓮に気付かれてしまいそうだから。
でも、その事を言えなくてキョーコは口ごもる。

「とにかく行こうか。」

蓮は何事もなかったかのように歩き始めた。
慌ててキョーコも後ろを追いかける。
でも、蓮の速度にキョーコは追いつけない。
ただでさえコンパスの長さが違う上、蓮は何か考え込んでいるのかキョーコが遅れている事に気付いていない。

「敦賀さん・・・・・・・・。」

呼んでも蓮は振り向く事無く歩いていく。
やはり先ほど手を振り払ったから怒っているのだろうか。
キョーコは不安に苛まれる。
そして、後悔し始めた。

――――― なんで振り払っちゃったんだろ・・・・・・・・。きっと怒ってるんだろな・・・・・・。折角のデートなのに・・・・・・。

自分のふがいなさに、キョーコはその場に立ち尽くした。

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もうはなさない 4

2012/12/06 (木)  カテゴリー/もうはなさない

少し遅い昼食をとる為、何を食べようか考えながら飲食街を歩く。
話題のスポットだけあって、いろんなお店が並んでいた。

「敦賀さん・・・・・本当にここでよかったんですか?」

手っ取り早く済ませようと、蓮が選んだのはハンバーガーショップだった。
目の前でハンバーガーを食べている蓮を見ながら、申し訳なく思ってしまう。

――――― パスタとかでも良かったのに・・・・。

そんなキョーコの心中を察したのだろうか?

「前にも一度、最上さんと一緒に食べたよね。」

蓮の言葉に、キョーコもその時の事を思い出した。

「・・・・・・そう言えば・・・・2度目に会った時に行きましたね。このチェーン店じゃなかったですけど。」
「あの時も最上さん、そうやって俺に謝ってたっけ。」
「だって、私が言い出したのにあんな事になっちゃって・・・・・・。」

ポテトをつまむ手を止めて、キョーコは俯いた。
思い出しただけでも恥ずかしい。

「あの時は、あまり時間もなくてサッと食べれる物ってアレしかなかったしね。それに、俺だってハンバーガーぐらい食べるよ。」

蓮もその時のことを思い出し、苦笑する。
2度目に会ったのは今年の2月だった。

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もうはなさない 5

2012/12/18 (火)  カテゴリー/もうはなさない

ショッピングモールだけあって、いろんな店が並んでいる。
キョーコが行きたい店に、蓮はいやな顔一つせずに付き合ってくれた。
立ち寄ったアクセサリーショップで、鏡に映る自分を見てふと、あの時の事を思い出す。

「そう言えば敦賀さん、私の事憶えてませんでしたよね?一瞬、間があったし。」
「そんな事ないよ。髪切ってたから驚いたんだ。」

痴漢騒ぎの後、キョーコは髪を切った。
ずっとロングだったのだが、フラられた事と嫌な出来事があった事を忘れる為にばっさりとショートにした。

「こんなに短くしたの初めてで・・・・・。」
「でも、似合ってるよ。」

キョーコの髪に手を伸ばし、優しく撫ぜる。
その手の温もりにキョーコは益々ドキドキして、急に話をそらせた。

「そう言えば私、映画を観た後も号泣してましたよね・・・・・・。」
「そうそう、感動の余り涙が止まらなかったんだよね。」

今思い出しても恥ずかしい。
しかも、泣いている姿ばかり見せている気がする。

「だって・・・・・愛犬の最後を看取る主人公の気持ちを考えたら・・・・・・。思い出しただけで涙が出てきます。」

少し涙ぐむキョーコに蓮はハンカチを手渡した。
それを見たキョーコはさっきまで涙ぐんでいたのも忘れ、おかしくて笑い出す。

「最上さん?どうして笑うかな?」

急に笑い出すキョーコの姿に困惑気味に問いかける。

「だって・・・・・私の家に敦賀さんのハンカチが2枚あるんですよ。一体この後何枚増えるのかと思って。」

1度目は駅で、2度目は映画館で渡されたハンカチは返す事が出来なかった為、キョーコの宝物入れの中に大事にしまってある。

「今度、ハンカチ返しますね。」
「いいよ、返さなくても。記念に持っておいてくれたほうが俺は嬉しい。」
「そういうもんですか?」
「そういうもんだよ。」

小首を傾げて聞き返すキョーコに蓮は同じ言葉を返した。
たかだかハンカチかもしれないが、蓮にとってはキョーコに出会った証のハンカチ、出来れば持っていて欲しい。

「本当はあの時、携番かメルアドを聞こうかと思ってたんですけど・・・・・なんだか言い出せなくって。」
「それは俺もだよ。聞こうと思ってたけど結局、聞けないまま別れたよね。」

映画を観た後カフェでお茶をしながら、蓮は夕食に誘うつもりだったが、キョーコの母親が電話してきて今日のお詫びに夕食を食べる事になった為、言い出せないまま別れた。

「そんな事より最上さん、何か欲しい物とかなかったの?」

ずっと話をしながらウィンドショッピングをしているキョーコに蓮は訪ねた。
先ほどから、可愛いと言っては商品を置く。
キョーコにしてみれば、欲しい物なんて沢山ある。
でも、先立つ物がないのだ。
バイトはしているものの、ほとんど貯金にまわしている為自由に出来るお金が少ない。

「欲しい物はありますけど・・・・今月のお小遣いは敦賀さんとのデート代にとってあるので・・・・・・。」
「そんなの気にしなくてもいいのに。俺の方が年上だし・・・・それにこれでも一応働いてるからね。」

蓮は大学に行くかたわら、大学時代の先輩の社に誘われ小さい会社を立ち上げた。
俗に言うIT企業で営業は社が、技術面で蓮が携わっている為、パソコンさえあれば何処でも仕事は出来る。
仕事によって出向かなければいけない事もあるが、ほとんどは社が処理してくれていた。

「それって、社さんの会社の事ですか?」
「そうだよ。あの日も仕事がうまくいったお祝いに“だるまや”に行ったんだ。」
「そういえば社さんが嬉しそうにしてましたもんね。」

3度目に出会ったのはキョーコがバイトしている“だるまや”だった。

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もうはなさない 6

2012/12/29 (土)  カテゴリー/もうはなさない

バイトを終えたキョーコは、帰り支度を整えると客が少なくなった店内にいるふたりに声をかけた。

「大将、おかみさんお疲れ様でした。お先に失礼します。」
「キョーコちゃん、暗い夜道だから気をつけて帰るんだよ。」
「大丈夫ですよ。私を襲う物好きなんて早々いませんから。」
「そんな事言って、前に痴漢にあっただろう?なんかあったらすぐに電話して来い。」

おかみさんと大将にそう言われ、改めて心配してくれていることに胸がいっぱいになる。
キョーコが痴漢にあった日も、遅れる連絡を入れたとたん仕事中にも関わらず心配した大将がキョーコを迎えに来てくれたのだ。

「あの日はたまたま、心が弱ってたからよ。もうあんなヘマはしないわ。」

カバンにはちゃんと防犯ブザーを入れたあるし携帯もいつでもかけられるようにしてある。
それに、足には自信がある。
道なら走って逃げることが出来る。
裏口から出たキョーコは表通りに出て駅へと歩き始めた。
その直後、後ろから人の気配・・・・・・。
人通りは少なく、キョーコにも緊張が走る。
キョーコが少し早足で歩くと足音も早足になる。

――――― やっぱり、ついてきてる?

気のせいではないことを悟ったキョーコは何とかしようと路地を曲がる。
その足音も路地を曲がってきた。
確信を持ったキョーコはその足音の人物と対峙せんと、もうひとつ角を曲がったとこで待ち伏せる。
手には分厚い参考書が握られていた。
足音が角を曲がった瞬間・・・・・・。
キョーコは思いっきり参考書を相手めがけて投げつけた。

「ッ痛・・・・・。最上さんひどいなぁ・・・・・・。」

そこに現れたのは間違いなく蓮だった。

「敦賀さん!?」

参考書を受け取りながらキョーコは蓮に謝る。
まさか、蓮が後をつけてたなんて夢にも思わなかった。
店を出たのはずいぶん前だ。
なのにどうしてこんな時間にここにいるのか?

「最上さんともう一度話がしたくてバイト終わるの待ってたんだ。」
「すみません・・・・・てっきり変質者かと思って・・・・・・。」
「それで参考書で戦おうとしてたの?」

あまりにも無謀な武器に蓮は呆れる。
本当に変質者だったらこんなもので勝てるわけがない。

「本の角って意外と硬くて痛いから大丈夫かなって。」

エヘヘと笑う表情がなんとも可愛い。
変質者でなくとも、思わずギュッとしたくなる。
そうしないように蓮は腕組みをする。

「最上さん、今日はもう遅いからよかったら送ってくよ。」
「そんな、いいですよ。まだ、電車の時間もありますから・・・・。」

警戒しているのか本当に遠慮しているのか、キョーコは蓮の提案を断った。

「そうだよね、こんな時間まで待ってたら怪しいよね。ごめん、今日は帰るよ。」

通算3回しか会った事のない男の車にホイホイ乗るような娘でない事に安堵しながら、蓮は警戒されたくないという思いからあっさり引き下がった。

「別に怪しいなんて思ってませんよ。敦賀さんは私を助けてくれたし、それに社さんのお友達だし。」

疑うそぶりもなく、そう言って笑う。
確かに社と仲がいいが、それではまるで社の事だけ信用していると言われているようで面白くない。
だが、社は“だるまや”の常連客で出張に行ってはキョーコに良くお土産を渡しているらしく、キョーコも兄のように慕っていると先ほど店内で話していたので仕方ないのだが・・・。

「送ってもらうなんておこがましいですから・・・・・・。」
「俺が送って行きたいんだ。ダメかな?」

優しく笑ってそう言われれば断る事ができない。
それに、キョーコも少し話しをしたいと思っていた。

「それじゃ、お願いします。」

キョーコは蓮と共に車の止まっている駐車場へと向かった。

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もうはなさない 7

2013/01/11 (金)  カテゴリー/もうはなさない

夏休み、バイトが忙しかったものの何度か遊びに出かけてみた。
優しくて気が利いて・・・出逢った時から良い人だとは思ってたが出かける度に気になるのは周囲の視線。
どう見たって不似合いな2人・・・・・・・お世辞にもお似合いだなんて自分でも思えない。
次こそは断ろうと決意して約束の場所に行くのだが、待っている蓮の嬉しそうな笑顔を見ると、なかなか言い出せない。
自分も告白して振られた身・・・・・・振られた時のあの辛さを考えればやはり言い出せなかった。
そうこうしているうちに夏休みも後半を向かえ、キョーコは部活の合宿で一週間久しぶりに家に帰ってきた。

「はぁ・・・・疲れた・・・・みんな食欲旺盛過ぎなのよ・・・・。」

キョーコの所属しているのは演劇部。
といっても、衣装作りや大道具の手伝い、合宿になれば食事の用意なども担当するいわゆる裏方の仕事。
そもそも、部活に入るとバイトが出来なくなる為、入るつもりは無かった。
奏江が演劇部に入っていたのもあって、バイトが無い日に一緒に帰る為に覗く程度。
入るきっかけになったのは文化祭が近づき、本番さながらに衣装を身に付け練習する姿を見ている時だった。
衣装は代々先輩達が置いていったもので、くたびれた物も多数。
そんな衣装を奏江が着るのは気の毒と、キョーコは奏江の衣装を縫い直したのだ。
それを聞いた部長から裁縫の腕を買われ、イベントの時だけでもいいから入部しないかと誘われた。
今回は秋の文化祭に向けての夏合宿だった。

「帰ってきたのはいいけどお母さん出張だっけ・・・・・。」

昨日メールにそんな事が書いてあった事を思い出し、キョーコは洗濯機を回した後、夕食をどうしようかと冷蔵庫の中を確認する。
残念ながら冷蔵庫にはこれといった物は入っていなかった。

「お母さん、私が作っておいたストック全部食べちゃったのね。」

合宿に行く前、キョーコが母の為に何食か作り置きしていたストックは、物の見事になくなっていた。
洗濯物を干し終わり、買い物にでも行こうとリビングに戻ってきたキョーコは、携帯の着信音に慌てて駆け寄る。
合宿に行くと蓮に告げていた為、気を使ってか蓮からの連絡は無かった。
毎日ではないものの、連絡を取り合っていた相手から、急に連絡がなくなると気になる。
この合宿の間、今頃どうしているのだろうと良く蓮の事を考えていた。
それなら自分から連絡すればいいのだが、もしかしたら忙しいのかもしれない・・・・・。
そんな理由をつけてキョーコはメールも電話もしていなっかった。
もしかしてと思いながら携帯に映し出された名前を見てキョーコは小首を傾げる。

「社さんが電話してくるなんてどうしたんだろ?」

メールは何度かやり取りしていたが、電話がかかってくるのは初めてかもしれなと思いながら、キョーコは電話に出た。

『キョーコちゃん・・・・・・助けて欲しいんだ・・・・・。』

切羽詰ったような声で、社は電話越しにキョーコにそう言った。

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もうはなさない 8

2013/01/18 (金)  カテゴリー/もうはなさない

どのくらい眠っていたのだろう。
薬のせいなのか頭がぼんやりとする。
蓮は目を覚ますとゆっくりと視線を彷徨わせ時計を見た。
時計は23時を回っている。
鈍い頭で、キョーコにいった言葉を後悔していた。

「もっと他に言い方があったろうに・・・・・・。」

どうしても目の前の光景が気に入らなくて、思わずあんな態度と言葉で追い返してしまった。
折角心配してここまで来てくれたというのに。
冷静に考えれば惜しい事をしたかもしれないと、後悔の波が押し寄せる。
その時、ふと身体に何かの重みを感じそちらへ視線を向けた蓮は愕然とした。
蓮の眠るベットの横に座りこみ、ベットに突っ伏してすやすやと眠るキョーコの姿・・・・・・。

「なっ、ど、どうして最上さんが・・・・・・・・。」

そう言えば、おでこにのせられている濡れタオルが冷たい。
少し下がった熱がまた上がりそうなほどの衝動。
蓮は気持ち良さそうに眠るキョーコを、かわいそうかと思いながらも揺り起こした。

「最上さん、最上さん・・・・・・。」

揺さぶられたキョーコは眠い目を擦りながら目を覚ました。

「・・・・・敦賀さん・・・・・。目が覚めたんですか?喉乾いてませんか?」

そう言って、キョーコは蓮が何か言う前に、キッチンに戻ると水を持って戻ってきて蓮に差し出した。
素直にそれを受け取ると、一気に飲み干していく。

「おなかすいてませんか?」
「少し・・・・ってそうじゃなくって、どうしてここにいるの?」
「どうしてって・・・・・・。」

キョーコは社と一緒には帰らなかった。
あの後、社にここに残りたいと告げ社も何かを悟ったのか、何も言わずに1人帰っていった。
もちろん蓮に怒られる事覚を覚悟して。

「敦賀さんが心配だったから・・・・・・・。」

その言葉は蓮には嬉しいような、切ないような・・・・・。
どうせ、病気の人をほおって置けませんって言われるのだろう。
そんな事を思いながら、寝汗を掻いた服を着替える為にキョーコを部屋から追い出す。

「はぁ~。まったく、社さんにちゃんと送っていくように頼んだのに・・・・・。」

時計を見ながら、大事な事に気がついた。

――――― こんな時間に、1人暮らしの男の部屋にいるなんて、親に知れたら大変なことになるんじゃないのか?

そう思った蓮は、慌ててキョーコがいるであろうリビングへとだるい身体をおして向かう。
だが、当の本人はのんきにキッチンでおかゆを温めていた。

「・・・・・最上さん、ちょっとこっち来て。」
「あ、もうおかゆが温まりましたから、これ食べて薬飲んでください。」

そう言いながら、おかゆを盛り付けると蓮の前に差し出した。

「最上さん、そうじゃなくて・・・・・・。」
「冷めないうちに食べてくださいね。あ、薬出さないと・・・・・。」

蓮の話を誤魔化しながら、キョーコは蓮の寝室に薬を取りに行ってしまった。
1人残された蓮は、仕方なくキョーコの作ったおかゆを口に運ぶ。

「・・・・・うまい・・・・・。」

正直、食欲はなかったものの身体は欲していたのかもうひと口と口に運ぶ。

「そうじゃなくって・・・・・・・。」

戻ってきたらちゃんと話て帰さないと・・・・・・。
付き合ってもいないのに、こんな時間に一緒に居たとなれば親にだって印象が悪くなってしまう。
まぁ、付き合うとは限らない為、いらぬ心配かもしれないが・・・・。
そんな事を考えていると、キョーコが戻ってきた。

「最上さん、ここに座って。」

真剣な顔でそう言われ、キョーコは薬と水を手に蓮の前に座った。

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もうはなさない 9

2013/01/26 (土)  カテゴリー/もうはなさない

本当に付き合うまでが長かったと思いながら、この手を絶対に離さないと蓮は密かに思っていた。
日が傾き始めた頃、蓮はキョーコの手を繋いだまま来た目的の場所へと急ぐ。
夕食前にどうしても見せたかった景色。
平日とあって、思ったよりも人の並びは少ない。
数分ほど待った後、蓮達は観覧車へと乗り込んだ。
ゆっくりと観覧車は二人を空へと近づけていく。

「展望台からの景色とはまた違って、眺めがいいですね。それに夕焼けが綺麗。」

先ほど行った展望台は街並みが見えて爽快だったが、観覧車からは街並みも海も見渡せる。
夕日が海に沈み始めるこの時間の景色を蓮はキョーコに見せたかったのだ。
向かいに座るキョーコは感動の声を上げる。
その様子に蓮は満足そうに微笑んだ。

「見てください!?もうあんなに人が小さく見える。」

キョーコは体を反転させて下の様子を伺いながら感嘆の声を上げる。
その言葉に、蓮は立ち上がるとゆっくりとキョーコの前に立って外を除いた。

「本当だ。結構高いところまで上がってきたからね。」
「わっ!?」

ゴツン!?

急に蓮の声が耳元で聞こえて、キョーコは驚きのあまり振り返り、予想以上に蓮が近くに居た事に再び驚き、観覧車の窓に頭を打ちつけた。

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もうはなさない 10

2013/02/07 (木)  カテゴリー/もうはなさない

天気がいいので、外でお昼ごはんを食べようと、キョーコは奏江と共に中庭にやって来た。
キョーコたちの他にも中庭には何グループか思い思いの場所でお弁当を広げている。

「あそこにしましょ。」

日当たりの良さそうな場所を見つけ、奏江はキョーコと共にその場所に座った。
キョーコがお弁当を広げると、すかさず奏江はいつものようにキョーコのお弁当をつまむ。

「あんたの作るお弁当って相変わらず美味しいわよね。将来いいお嫁さんになれるわよ。」
「あっ、モー子さん、また勝手におかず食べてるし!!」

奏江の冷やかしにキョーコは真っ赤になってポカポカと奏江をたたく。
それが照れ隠しと分かるだけに、微笑ましい。

「それにしても・・・・今回のテスト、キョーコのヤマが当たって良かったわ。」
「それは、モー子さんがちゃんと勉強してたからだよ。記憶力いいし。」

返ってきたテストは予想していたよりそこそこ良かった。
キョーコとテスト勉強をして、ポイントを教えてもらっていたからだと奏江はキョーコに感謝する。

「そういうあんたは今回も良かったんでしょ?」
「そんな事ないよ・・・・。数学と英語がイマイチだったんだ。」
「イマイチって、何点だったの?」
「数学が90点で英語が92点・・・・。もっとちゃんとやっとけば良かった。」

キョーコの言葉に、奏江は呆れて大げさに肩をすくめる。

「今のはれっきとした嫌味よ。特にあんたの幼馴染には言わないほうがいいわね。」
「どうして?」

自分では嫌味なんて言ったつもりはない。
でも、奏江にそういわれて小首を傾げた。

「あのねぇ・・・・90点台の時点で十分だと思うわよ。私なんて70点台取れれば物凄く良いほうだと思うけど?」
「そうなの?」
「そうなの。だから、あんたの幼馴染はきっと半分以下の点数だと思うから言わないほうがいいわよ。怒るとややこしいから。」

納得させるようにそう言いながら、奏江はもう一口キョーコの卵焼きをほお張った。
確かに、尚はいつもテストの点数は余りよくないようで、隣同士のキョーコの家にまで怒られる声が良く聞こえてくる。
尚曰く、『俺の人生、こんなテストなんかで量られたくないね。勉強なんて出来なくたって俺には輝ける未来がまってるんだよ!?』なんだそうだ。

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